2012/05/31
「多習」と「精習」
何か学習していても思うように上達しないなと悩んでいる人、あなたは「精習」ばかりしていませんか?「精習」とは、字の如く精度や正確さを高めるための練習ですので、決まった字、手本だけを集中して繰り返して書く練習方法です。当然、字の形や筆使いの正確さを高める事は必要ですが、特に初心者に陥りがちな現象として、熱中するあまり手本からどんどん離れていくという事。真剣になればなるほど、また焦るほどに視野が狭くなり(ムキになり)、結果として書けば書くほど纏まりが無く手本から離れてしまいます。
例えば学生の頃のテストを思い出して下さい。分からない問題にぶち当たったら、それはそのままにして次に進むでしょう。楽器を習う際も、最終目的は曲の最初から最後まで弾けるようになる事のはずで、テクニックはそのために必要な要素です。ある技術につまずき、その技術を習得する練習は大切ですが曲全体の世界観をつかむ事も同時に大切です。語学も然り。単語や文法の習得は大切ですが、一つの単語や文法のつまずきばかりに捕らわれると全てが滞りますよね。
ですから私は日頃から一つの手本に囚われず、数多くの字や手本を書くべきと指導しています。これは私が師匠から言われてきた事でもあります。習い始めの頃はこの事にピンとこなかったのですが、指導してみると実感する場面が多々あります。
昇級・昇段試験に挑戦する場合や展覧会に出品する場合、締切が近づくにつれ焦るのはとてもわかりますが、何度か書いてみて思うように進まないと感じたら迷わず次に進むなり、他の課題や手本を取り組んだ方が、結果として書道の経験値は上がり、上達に繋がります。私の師匠は展覧会に出品する際は、一つしか出品しない場合でも必ず複数の作品を同時進行するようにと助言します。これもやはり一つの世界に縛られないように、またどちらかに行き詰っても他の作品に向き合うことで心が楽になるからです。とにかくその世界での経験値を積む事に尽きます。自分が積んできた経験は自分の引き出しになり、いつか絶対に自分を助けてくれます。
これは私の感覚ですが、普段は数多くの字を書き込む「多習」をし、定期的に添削を受け指導された箇所はすぐに復習する。そしてまた次に進んで「多習」を行う。そして提出の期日が迫ってきたら、時間を決めて集中して「精習」する、という学習方法が最も効果的だと思っています。言ってみれば「広く浅く」と「狭く深く」のバランスです。どちらも必要ですが、片方だけに集中してはいつまで経っても総合力が身につきません。そしてたまに自分の取り組み方をもう一人の自分の視点から俯瞰してみる(自分と向き合う)習慣も大切です。
指導者によっては私と異なる事を言われる事もあるでしょうが、知っていて損になる学習方法ではないはずです。それから上達の前提として自習は必須です。書道は語学やスポーツ、音楽と同じように自己練習無しには絶対に上手くなりません。とにかく練習(多習)あるのみ、上手く書けないなら人の2倍書けばいい。人の2倍書いても上手くならないなら3倍、4倍と書くだけです。
練習は裏切りません。書いた分だけ絶対に上手くなりますので、現在、自分の上達が感じられないのなら練習方法を変えてみる試みはしてもよいはずです。
因みに私は最近、精習の量を増やしているのですが、集中力が必要となるので長くは続けられません。レッスンの合間、小刻みに時間を区切って気分転換で多習をし創作もしています。辛いと思えばいくらでも辛くなる芸術の世界ですが、楽しい事を探し出したら無限にあるのも芸術の世界です。


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