2012/08/25
街で見つけた字
8月も下旬というのにこの酷暑。でも空を見上げた瞬間とか、日の出や日の入りの時間で少しずつ秋を感じます。確かに時間は巡っている。先日、個展でお世話になる画廊へ使用料を支払いして、少し身が引き締まる思いで家路につき、自宅近辺で買い物をしていた時、ふとあるお店の看板が目に入りました。普段からしょっちゅうそのお店の前を通っているにも関わらず、初めてそのお店の看板に目を留めたといっても良いぐらいそのお店の看板に目を向けた記憶が無く、この時、運命的に「対面した」という感覚に襲われました。
「良い雰囲気を持つ字だな。味わいがあるし力みがない。でも字の格調は保っていて素敵だな」というのが最初の印象でした。どこかで見た事がある感じがし、もしかしたら・・・と思って看板の落款を確認したらビンゴ!でした。
そう、何と中村不折の字だったんです。彼は明治・大正・昭和時代の画家でもあり書家でもある芸術家で、書道を勉強する者なら誰でも知っている人物です。独特の世界観を持ち、大らかさと気力のバランスが良く、書道の世界を知れば知るほど、彼の作品の大きさを感じるのです。あんな風にさり気なく存在感のある字を書けたらな、と思わずにはいられません。彼は多くの有名な看板やロゴ文字を残しているので、不折の名前は知らなくても、その字を見た事は誰でもあると言って良いほどです。例えば「新宿 中村屋」の字もその一つ。

これがその看板。慶応大学近くの大阪屋という和菓子屋さんです。
もっと街の中でこのような素敵な字に出会えると良いのですが、残念ながら今はお店の看板にしても、ロゴに使われる字にしても品のないものが多く書道を学ぶ者としては「またか・・・」と辟易する事が多いです。日常、目にする字が良いものであれば書道への意識も変わるだろうし、格調高い字に囲まれた字で生活すれば、自ずと良い字を見極める目も養われるだろうと思うのですが、現在は逆行しています。
「もはや書道は日本人にとって最も馴染みある芸術ではなくなった」とは昨日、師匠が言っていた言葉。悲しいけれど現実だと感じています。せめて現存する良いものを大切にし後世に残していきたいものです。
個展に向けて少しずつ草稿を書きだし創作モードに入ってますが、「落とし所」が難しいなあと悩む毎日です。玄人向けの字ばかりだと素人には理解できない、素人向けに迎合したくはない、そうなると両方を混ぜていくしかないのですが、全体としての統一感も必要です。今回は捨てる作品を勇気を持って作るつもりです。


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