2015/12/15
暖冬の今年、確かに例年より寒さが苦にならず、いつもならしっかり重ね着している時期ですが、室内なら秋物の装いでも十分で、寒がりの私には有り難いのですが、地球上では良いばかりではないようですね。マイナスの影響も各方面であるようです。
そう、何でもプラスがあればマイナスがある。当然といえば当然なのに、どうしても私達は自分にとってのプラスだけに目を向けてしまいます。心に余裕がなければ、なお視野が狭くなり、近距離のプラスばかりを追ってしまいます。でもこの世はプラスとマイナス、陰と陽で一つの世界、両方を見つめる冷静さを常に備えていたいもの。
では、書道の世界においては、どうなのでしょうか。折しも一年を振り返る時期になりましたので、今年の書道の勉強の成果を振り返る際のヒントとして、今回は書道における対極の世界についてまとめてみます。
書道の勉強は古典臨書と創作を両輪としてバランスよく学習しなければなりません。どちらかに偏ると、独りよがりになり、訴求力が弱くなります。
古典臨書においては、どこまでも緻密に正確性を追求する事を心がけます。筆使いは勿論の事、線の呼吸や文字間や行間への気配りも必要です。また書体が異なれば気を付けるべき観点も異なる場合もありますし、道具の検討も必要になります。
一般的な書道の学習は、まず臨書の学習をし、そこで身に付けた事を用いて創作へと展開していきます。ですから書道を習うと、まずは臨書から、、、という手順となり、多くの方は欧陽詢の楷書だったり、王羲之の蘭亭叙や集王(字)聖教序などから臨書の学習をスタートされ、臨書のイロハを学んでいる事でしょう。臨書の勉強には時間がかかるので、数か月、半年とずっと同じお手本を書いているという話も聞きますが、私達の最終地点は臨書から創作に応用させることです。
臨書は大切ですが、そこに満足してはいけません。所詮、どんなに勉強しても私達は王羲之にも欧陽詢にも空海にもなれませんし、彼らを超える事は出来ないのです。彼らのお手本から様々なエッセンスを汲み、自分の作品に反映していかなければなりません。
ある程度、半紙で臨書の勉強を進めたら、半折に二行(14文字程度)で書いてみる。そうすると墨継ぎの場所を気にしなければならないこと、作品にリズム感を与える事、墨に潤渇の変化をつける事、文字に大小の差をつける事、効果的な落款の入れ方など、半紙で臨書を勉強していただけでは作品が成立しない事を実感するはずです。また手本とそっくりに書けたとして、そこには何も魅力が無いという事も気付くのではないでしょうか。
上手な字を書きたいのは誰もが願う事ですが、あまり細部にまでこだわっていると本質を見失います。一生懸命書いているけれど、あまりにも手本にこだわり過ぎのあまり、「上手だけど、ただそれだけ」に終わっている方が以外と多いものです。
作品(創作)を書く場合は、対極にある世界を意識してみてください。大きな字と小さな字がある、滲みとカスレがある、ゆっくり筆を動かす線とスピード感ある線がある、、と対極のものが一つの世界に同居すると、立体的な素敵な作品に仕上がります。つまり「臨書では正確に、緻密に」に対して「創作では大胆に、変化をつける」という事になり、臨書練習の要領で大きな紙に書くだけでは作品は仕上がらないのです。
創作のヒントとして、、、墨継ぎではどれぐらいの墨を付けていますか?すぐにかすれてしまうのでは足りなさすぎです。筆先から墨がポトポトと落ちるぐらいで丁度良いのですよ。作品のスタイルにもよりますが、字の大きさに大小の差がありますか?リズム感がありますか?同じスピードで書き続けていませんか?太い線と細い線が両方ありますか?作品の中で主役になる部分が一目でわかるように変化を付けていますか?美しいカスレがありますか?落款の位置にも気を配っていますか?印の大きさや印泥の色は最適ですか?墨色や余白は美しいですか?線質や墨の濃度と紙の相性は良好ですか?
実際に創作していくと、まだまだ気に付けなければならない事がありますが、ざっとこんなもんでしょうか。このような事は半紙練習では身に付きません。日頃から半紙で臨書の学習の後には創作に展開していく事を習慣化してほしいものです。スポーツで例えるなら、臨書は筋トレや素振り、バッティング、ピッチング、キック、サーブという個々のテクニックの練習であり、創作は試合になります。黙々と素振りだけをやっていても試合には勝てませんし、個々の練習をせずに試合だけを繰り返しても徒労に終わります。両方をバランス良く、弱点を克服するためのプログラムをこなして総合力が付き、メンタル面も強くなり、本当の勝者になります。
すみません、かなり冗長になってしまいました。最後まで目を通して頂いた方には感謝いたします。言いたかった事は、細部へのこだわりと同様、大胆さも大切という事です。そして経験を積む(書く)以外に道はありません。現状維持に留まらず、これまで経験したことのない事に挑戦し、新しい境地を切り開いて頂きたいし、私もそうありたいと思っています。
今年も残り2週間ほどですね。例年、この時期は気忙しいものですが、なるべく平常心で過ごしたいと年々強く思うようになってきました。
