2016/02/26
道具選びも実力のうち
もう目の前は3月だというのに、ここ数日厳しい寒さですね。この寒さも今日まででしょうか?週末から暖かくなるようです。今日は道具について、少しばかりアドバイスを。ご指導していると、道具に興味を持つ生徒さんと、あまりこだわりを持たない生徒さんに分かれるようです。書道の道具は無限にあります。「これがいい!これを使うべき!」と言い切れません。でも私の持論は、何でもいいではないと思っています。また「高ければいいのか」と問われると、これも「いい場合もあるし、そうでない場合もある」のです。まあ、一言でいうと、ケース・バイ・ケースなのです。そして、道具を選び、道具のコンディションを整えるのは自分の責任だ、ということ。
よく初心者に見受けられる「自分はまだ習いたてで下手だから安い道具でいい、高い道具は上級者になってから」と、いつまでも同じ筆一本を使い続け、100円ショップで売っている半紙や墨液を使っている状態は、実は上達の妨げになっている場合が多いのです。高い道具を揃えれば自動的に上達する訳ではありませんが、上達しやすい道具を選ぶことは大切な事です。
先日、ある企業でのレッスンの最後で、思うように上達しない原因の一つが「使いずらい筆を使っている」と確信したので、筆の買い替えをそれとなくご提案しました。初めは「そんなもんなのか?筆なんてどれも同じように見えるけれど・・・」という反響だったので、思い切って私の筆で一枚書いてみてくださいと言ってみました。その場にいる1人が書いてみると、「え~!なに、この書きやすさ!筆が書いてくれる!!」と驚嘆し、その後も続々とその場にいる人が私の筆で書いていき、全員が筆の違いによる書きやすさを実感していました。そうしたら、「どこで買えばいいか、予算はいくらぐらいがいいか・・・」と、すっかり新しい筆を買う話題で持ち切りになりました。
自分に合った、もっと言うと取り組む作品に合った道具選びはとても重要です。作品の良し悪しに多くの影響を及ぼすものです。勿論、自分の「腕=実力」を上げる事が前提ですが、最適な道具選定は、制作過程の一つでもあるのです。
指導者の中には、強制的に、この作品にはこの筆、あの課題にはこの紙、、、という具合に道具を指定し、次々と購入を迫る場合もあるようですが、私はアドバイスはしますが強制はしておりません。自分に合う道具を自分で選ぶ事も大切な経験と捉えているからです。私もそうしてきました。その中で失敗もある訳です。でも失敗から学ぶことの方が大きかったと思っていますし、無駄になった道具は何一つありません。失敗も含めた経験は必ず後で生きてきます。経験値を高める事で、創作への発想にも結び付いていくものです。私は最適な道具を選定できるのも実力のうちだと確信しています。
余談ですが、「弘法筆を選ばす」という言葉、一度は耳にしたことがあると思いますが、これは空海が筆にこだわりが無かったというのではなく、むしろその逆で、道具の選定にはとても気を配ったといわれています。書体によって筆を使い分けていた、という話も聞いたことがあります。

思うように上達しないなと感じている場合、一度道具を検討されてみてください。同時に日頃の道具のお手入れも大切です。


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