2017/09/08
9月に入り、空も秋の模様になりました。季節の移ろいを感じますね。そして9月ということは今年の残りはあと4ヵ月。本当に早いですね。
昨日、少し調べ物をしていて、偶然にタイトルにもある高村光太郎の「書について」という文章に出会いました。言うまでもなく彼は偉大な芸術家です。彫刻や絵画、詩など広い分野にわたり、作品を残されています。そんな彼が「書」について、どのような思いがあったのか、かなり興味があり、気軽な気持ちで読み始めたものの、冒頭で「おっ!これは心して読むべき物だぞ」という、一種の緊張感に包まれました。
その冒頭とは
「この頃は書道がひどく流行して来て、世の中に悪筆が横行している。なまじっか習った能筆風の無性格の書や、擬態の書や、逆にわざわざ稚拙をたくんだ、ずるいとぼけた書などが随分目につく。」
というものです。
どうですか?これ、今と全く変わらない様です。現在、書道がひどく流行しているかどうかは一概に言えませんが、でもやってみたい習い事では大人も子供も書道は必ず挙がっています。そして、何よりも気になるのが、彼の言葉でいう「わざわざ稚拙をたくんだ、ずるいとぼけた書」が、あたかも素敵なものとして扱われている現状。
ああ、このような状況は高村光太郎が活躍していた時代から存在して、どんどん退化の一途をたどっているのか、と改めて痛感したのでした。
この「書について」は短くさっと読める文量でありながら、全体を6つに区分けし、構成されています。ざっと内容をつまんでみると、
一:
書は習うに越したことはない。もともと書は人工に起源を発し、伝統の重量性にその美の大半をかけているので、生まれたままの自然発生的の書には深さがなく、脆弱で味気ない。
二:
人工から起こったものは何処までも人工の道を究めつくすのが本当。生まれながらに筆硯的感覚をもっている人ですらそうであるから、その感覚をもっていない人の書となると、俗臭に堕する。そして世の中にはそういう書が幅をきかせている。
三:
書は造形的であるから、その根本原理として造形芸術共通の公理を持つ。比例均衡の制約。筆触の生理的心理的統製。布置のメカニズム。感覚的意思伝達としての知性的デフォルマション。こういうものを無視しては書が存在しない。書を究めるということは造形意識を養う事であり、この世の造形美に眼を開くこと。
四:
漢羲六朝の碑碣の美はまことに深淵のように恐ろしく、実にゆたかに意匠の妙を尽くしている。しかし筆跡の忠実な翻訳というよりも、筆と刀との合作といるべきものがなかなか多い。それゆえ、古拓をいたずらに肉筆で模しても俗臭堪えがたいものになる。
五:
王羲之の書は、偏せず、激せず、大空のようにひろく、のびのびとしていてつつましく、しかもその造形機構の妙は一点一画の歪みにまで行き届いている。書体に独創がおおく、その独創が普遍性をもっている。
六:
書は当たり前と見えるのがよい。無理と無駄との無いのがいい。力が内にこもっていて騒がないのがいい。悪筆は大抵余計な努力をしている。そんなに力をいれないでいいのに、むやみにはねたり、伸ばしたり、ぐるぐる面倒な事をする。
どうですか?しっかりとした書道論ですね。特に「三」は、さすが後世に名を残した芸術家の視点だな、と感服しました。書道を学んでいる者の中で、どれだけ造形芸術共通の公理や意識を気にしているでしょうか?
また最後の「六」も、心当たりありませんか?最後の「はね」がやたらに強調されたり、必要以上に伸ばされたり・・・本当によく見かけるものですね。また、それが恰好が良いと評されるのだから困ったものです。
どの世界にも言える事ですが、良いものは無理と無駄がないものだと改めて胸に刻んだ次第です。自戒のためにも、今回、ブログでこの「書について」をご紹介いたしました。
※ちなみに高村光太郎は著作権が切れていますので、全文を読んでみたい場合には青空文庫で読めます。
過ごしやすい季節になりましたから、じっくり落ち着いて基本に向き合ってみるのもいいですね。
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